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研究室の挑戦

究極のサウンドシステムが、暮らし方に革命を起こす!?



SNSやSkypeなどのWEBツールが充実したおかげで、
遠く離れていてもタイムリーなコミュニケーションが容易になった。
しかし「直接会う」という行為には、まだいろいろな意味でおよばない。

いくら4K、8Kという高解像度画像と高品質スピーカーで再現しようとも現実と錯覚することは少ないだろう。
人間の感覚は、それほど敏感なのだ。

この繊細な感覚に、今までとはまったくちがう方法でアプローチし、
「本当にその場にいるかのような音」を再現しようとする試みがある。

さあ、人類の暮らし方さえも変えてしまいそうな、
究極のサウンドシステムのお話、はじまり、はじまり。

音楽は3Dで楽しむ時代へ!?
スピーカーの進化がとまらない。

そこにないけど、そこにある。
空間に浮かび上がる3次元映像=ホログラフィーの登場は、本来立体的に空間を把握する我々の視覚に映像技術が追いついてきたことを意味する。しかし視覚同様空間を立体的に把握している聴覚に対する音響技術はどうだろうか。そもそも私たちの日常では、空間のさまざまな方向に反響している音を聞き、その聴こえ方でそこがどんな空間なのかを把握している。狭い密室、広い高原、奥行きのあるコンサートホール、etc……。そんな“空間そのもの”が持つ音の臨場感までも再現してしまう、ホログラム的スピーカーの開発が進められている。それも従来のサラウンドシステム(複数のスピーカーを置いて立体感のある音を出す)などとは異なる、まったく新しいアプローチで。

空間の音を再生するということはどういうことだろう?通常のスピーカーはある一点の音圧を再生していて、これは写真の絵は綺麗だが奥行は感じないことと似ている。たとえばコンサートホールで聴く音を立体性も含めて再現しようとするなら“音の向き”も含めて再生する必要があり、理論上では実に1cm刻みにスピーカーを設置しなければならない。つまり、1㎥で10000個のスピーカーが必要というわけだ。およそ現実的ではない。しかし、そこに一石を投じようとしているのが、武岡成人博士だ。「理論的には10000個でも、実際に人間が感覚としてリアルな音と感じるのにどんなシステムが必要かはわかっていません。なぜなら、スピーカー数が多すぎてそんな音場を誰も再現しようとしたことがないから。そのような中で私の研究では、いわゆるスピーカーの音質の向上ではなく、超多チャンネルという方法で『音場(音の空間)』をどれだけ理論に忠実に再現できるかにチャレンジしています。これができればエンターテイメントやコミュニケーションツールとして大きく発展するだけでなく、ノイズをキャンセルして部屋全体を静かにしたり、“雰囲気”や“気配”なども再生できるかもしれません」。

1cm刻みにスピーカーを制御する
最新制御×驚きのアイデア

まず、「超多チャンネルスピーカーの制御」という課題をクリアするために彼が目をつけたのが、狙った方向に音を飛ばせる〈パラメトリックスピーカー〉。美術館やアミューズメントパークのアトラクションなどで、ある場所に立ったときだけ音が聞こえてくる、近年普及が進み始めたスピーカーシステムだ。「音はふつう同心円状に広がっていくのですが、これは直線的に音を飛ばせます。さらに私達が開発した多チャンネル制御システムを使えば正面だけではなくレーダーの様に色々な方向にそれぞれの音ビームを飛ばすことができます」。たとえば特殊な壁に音ビームを反射させれば、一箇所のパラメトリックスピーカーから色々な方向に出力し反射させることで音をスクリーン上の自由な箇所から再生する「音のプロジェクター」ができるなど応用できる幅は広そうだ。

パラメトリックスピーカーの仕組みを上手く応用すれば、“ホログラム的スピーカー”の実現へと一歩近づく。次に彼が課題と考えたのが配線だ。前述の超高密度スピーカーを大規模に作ろうとすれば、各スピーカーへの配線は何千、何万と1cm毎に配置されたスピーカーの合間を縫って配線しなければならず、非常に難しいことは想像に難くない。しかしそのような問題への解決策として見せてくれたのが、彼が開発した〈乗算出力スピーカーアレイ〉。難しそうな名だが、配線の組み合わせの数だけ音源を再生できるという画期的なシステム。
通常のスピーカー端子には+端子とー端子があり、これらの引き算の結果が出力されることから最低でもスピーカーの数だけ配線が必要であったが、この方法だとたとえば縦32横32本、計わずか64本の配線で1024チャンネルの音源データを出力できるとのこと。この技術を推し進めれば何万、あるいはそれ以上といったこれまでの常識から考えると途方もないチャンネル数の制御も現実味を帯びてくる。多チャンネル技術のブレイクスルーと言って過言ではないだろう。

「私がこの研究をしているのも、自分の好きなミュージシャンが目の前で演奏しているかのような贅沢を、老後に自宅で楽しみたいからなんです(笑)。今年の秋にはまだ小規模ですが1cm刻みで音を再現するシステムを学会で発表する予定ですよ」と話してくれた武岡博士。彼のもとには、音楽好きの学生たちが集い、究極のサウンドシステムの完成を求めて、研究に明け暮れている。

ライター:志馬 唯

静岡理工科大学 武岡成人 准教授

“超多チャンネル信号処理を用いた3次元音場の記述と伝送”をテーマに、新しいスピーカーを使った限りなくリアルな音場の再現を探求している。また、この研究の過程で実現した多チャンネルの制御技術は、電気自動者がその静粛性を維持しながら「限られた歩行者にのみ注意喚起を行えるシステム」への利用など、他方面への応用が期待されている。
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