「シリコンヴァレー」が「アルミニウムヴァレー」になるかもしれない未来!?
私たちの日々の暮らしは、
私たちの知らないたくさんの
要素によって成り立っている。
驚くほどのスピードで
文明が進化しているのは、
それに見合うだけの多くの研究が
どこかで行われているからだ。
それは案外、身近な場所かもしれない。
世界の未来を変えるかもしれない発見をした、
とある研究者のストーリーに迫る。
スタンダードをくつがえす
産業界に訪れるディープインパクト
トレンドの予測はむずかしい。ファッション・ブランドにしても飲食店にしても、あらゆる企業が数カ月、あるいは来年の業界の動きを知るために必死だ。ビジネスマンの使命は、1~2年先の極めて近い未来を探ることだともいえる。対して10~20年先、来るべき20XX年に向かって新たなテクノロジーの発見を試みるのが、研究者たちのライフワークだ。それはまさに前人未到へのチャレンジ、砂漠でコインを探すような日々。失敗と成功を繰り返しながら、あるかどうかもわからない未知の論理をひたすら追求していく。
その結果、未だかつて誰ひとり到達できなかった、従来のスタンダードをひっくり返す「驚くべき大発見」を“ひそかに”している研究者は意外とすくなくないのかもしれない。今回紹介する小澤哲夫教授もそのひとりだ。彼の研究がもし実用化されれば、この地球の未来に多大な影響を与えるだろう。その根拠は、もはや世界をおおいつくしたといっても過言ではないIT関連企業、アップルやgoogle、インテルやアドビシステムズなどが、軒並み本社を連ねる「シリコンヴァレー」の名前の由来にある。
スマホやパソコンに台頭される電子製品を動かすには、「半導体」が必要だが、その主原料となるのが「シリコン」。彼の地がそう呼ばれるようになった理由だ。つまりシリコンなくして現代社会の利便性は維持できないのである。安価で大量生産が可能なため、現段階ではこれにとって代わる材料はない。と考えられてきたのだが、そこに革命をもたらす可能性を秘めているのが、小澤教授の研究だ。
スマホやパソコンに台頭される電子製品を動かすには、「半導体」が必要だが、その主原料となるのが「シリコン」。彼の地がそう呼ばれるようになった理由だ。つまりシリコンなくして現代社会の利便性は維持できないのである。安価で大量生産が可能なため、現段階ではこれにとって代わる材料はない。と考えられてきたのだが、そこに革命をもたらす可能性を秘めているのが、小澤教授の研究だ。
「パソコンを使いすぎると“ウィーン”って音がしますよね。あれは半導体のなかのシリコンがダメにならないようにファンで『冷やして』いるんです。樹脂はどうしても熱に弱いので。それで対処できる小電力の製品はまだいいのですが、クルマや電車のモーター、またはバッテリーに使われる『パワーデバイス』と呼ばれる半導体は、さらなる高熱に耐えなければなりません。現在はそれにも特殊なシリコンが利用されていることが多いのですが、理論的に限界があり、耐熱性の高い『AIN』という窒素とアルミニウムから成る材料がより適しているとされています」
このAINは、高温・高速動作が可能なだけではなく、シリコンに比べてパフォーマンスも非常に高い。しかし、製造するには2000℃、5万気圧という超高温高圧の条件が必要であり、設備投資だけでも莫大なコストがかかるため、製品として使用される範囲は限られている。それを「従来に対して、比較的“カンタンに”生み出す方法を発見したんです」。
このAINは、高温・高速動作が可能なだけではなく、シリコンに比べてパフォーマンスも非常に高い。しかし、製造するには2000℃、5万気圧という超高温高圧の条件が必要であり、設備投資だけでも莫大なコストがかかるため、製品として使用される範囲は限られている。それを「従来に対して、比較的“カンタンに”生み出す方法を発見したんです」。
この研究の核となる理論については、学会での正式な発表を控えているため、まだ明かせないという。しかし方法としては、高温高圧ではなく、600℃、 0.01気圧という一般人にも想像できそうな範囲の低温低圧でAINを生み出すことが可能になると教えてくれた。原子レベルで窒素とアルミニウムを積層する技術だそうだ。これが実用化されれば、安全かつ安価に、高性能なパワーデバイスの大量生産が見込めることは間違いない。
「特に期待しているのが太陽光発電です。既存のソーラーシステムは、全体の太陽光エネルギーの15%ほどに当たる、“目に見える光(可視領域)の一部”しか電力に変換できていません。しかしこのAINとInNの化合物なら、紫外線や赤外線の領域までエネルギーに変換することができます。その数値は60~70%程度、つまり現在の4倍ですね。私たちが行っているような『先端材料研究』はこのように、世界の研究者を相手に、今にない技術を生みだす基礎研究。常に10年、20年先の産業界を予測しています」。だからこそ独創性が求められるのだと、小澤教授は言う。それゆえ成功したときの成果は、計り知れないものになるのだろう。「シリコン」が「アルミニウム」に変わる日が来るかもしれないほどに。
日本の、それも静岡の片隅にある大学の一室で行われていることが、のちに産業界の未来を大きく変える。そんなワクワクをはらんだ「先端材料研究」は、広くこそ知られていないが、研究者冥利、ひいては学問冥利に尽きる、奥の深い研究だといえるようだ。
「特に期待しているのが太陽光発電です。既存のソーラーシステムは、全体の太陽光エネルギーの15%ほどに当たる、“目に見える光(可視領域)の一部”しか電力に変換できていません。しかしこのAINとInNの化合物なら、紫外線や赤外線の領域までエネルギーに変換することができます。その数値は60~70%程度、つまり現在の4倍ですね。私たちが行っているような『先端材料研究』はこのように、世界の研究者を相手に、今にない技術を生みだす基礎研究。常に10年、20年先の産業界を予測しています」。だからこそ独創性が求められるのだと、小澤教授は言う。それゆえ成功したときの成果は、計り知れないものになるのだろう。「シリコン」が「アルミニウム」に変わる日が来るかもしれないほどに。
日本の、それも静岡の片隅にある大学の一室で行われていることが、のちに産業界の未来を大きく変える。そんなワクワクをはらんだ「先端材料研究」は、広くこそ知られていないが、研究者冥利、ひいては学問冥利に尽きる、奥の深い研究だといえるようだ。
ライター:志馬 唯
静岡理工科大学 小澤 哲夫 教授
独自の研究において、青色発光ダイオードに代表される窒化物半導体を窒素プラズマの使用で低温かつ低圧で合成することに成功。これを発展させ、次世代太陽電池となる窒化物半導体や、水素を発生させる半導体の育成に取り組んでいる。「将来的には開発した半導体を使って、クリーンエネルギーによる電力供給なども考えています。本分野は電気電子工学ですが、物理だけではなく化学が好きな人にも来てもらいたいです」。
独自の研究において、青色発光ダイオードに代表される窒化物半導体を窒素プラズマの使用で低温かつ低圧で合成することに成功。これを発展させ、次世代太陽電池となる窒化物半導体や、水素を発生させる半導体の育成に取り組んでいる。「将来的には開発した半導体を使って、クリーンエネルギーによる電力供給なども考えています。本分野は電気電子工学ですが、物理だけではなく化学が好きな人にも来てもらいたいです」。