自動運転車に「究極の乗り心地」を。
完全な自動運転車が実現した後
次に必要となる技術とは?
AIによる自動運転は試行錯誤を重ね、着実に進化を続けている。日本国内ではいま、レベル2(ドライバーのサポートとして、未然に事故を防いだり、運転負荷の軽減を主目的とする技術レベル)の自動運転車が公道を走っている状況である。現在はさまざまな内容の”運転支援”が市販車に実装されつつあるが、 状況・条件を限定した”自動運転”は世界的に開発が試みられている段階。”いつでもどこでも”車に運転を任せるようになるのはまだずいぶん先の話だが、しかしいつかきっとそうなる。
そんな時代が来た時、より快適な運転のために私たちには何が必要になるのだろうか?すでに“次”を見据えて研究を進めている研究者がいる。
自動運転に質が求められる未来
難しい”本当の”乗り心地評価
「自動運転が日常になれば、次に求められるのはその“運転の質”ではないか」そう話すのは、静岡理工科大学理工学部機械工学科の野崎孝志教授。企業とともにさまざまな研究を行っている、トライボロジー(摩擦学)や自動車NVH(Noise:騒音/Vibration:振動/Harshness:乗り心地)領域の専門家である。
野﨑教授は「乗り心地」を評価するための新しい手法を模索している。言い換えるならば“究極の乗り心地“を実現するための研究といえるだろう。
「乗り心地の評価」はとても難しい。 「乗り心地が良い」という時に私たちが最初に思い浮かべるのは、恐らく“静粛性”や”安定性”だろう。しかし「心地よい揺れ」というものがあるように“大きな揺れが不快・小さな揺れは快適”と簡単には分けられない。それが評価の難しい所以だ。
現状の評価で使われるFFT解析(時刻歴の波形に含まれる様々な周波数を検出し解析する方法)では、周波数ごとの車体振動を表し、人間が感じる振動を数値にすることが可能である。しかし、乗員の“感じ方”には個人差があり、そもそも振動だけを基準にして乗り心地を評価してよいのかという根本的な疑問も生じる。
ゴツゴツとかフワフワとか、曖昧な表現も多い”乗り心地”をどう評価すべきだろうか。
次に必要となる技術とは?
AIによる自動運転は試行錯誤を重ね、着実に進化を続けている。日本国内ではいま、レベル2(ドライバーのサポートとして、未然に事故を防いだり、運転負荷の軽減を主目的とする技術レベル)の自動運転車が公道を走っている状況である。現在はさまざまな内容の”運転支援”が市販車に実装されつつあるが、 状況・条件を限定した”自動運転”は世界的に開発が試みられている段階。”いつでもどこでも”車に運転を任せるようになるのはまだずいぶん先の話だが、しかしいつかきっとそうなる。
そんな時代が来た時、より快適な運転のために私たちには何が必要になるのだろうか?すでに“次”を見据えて研究を進めている研究者がいる。
自動運転に質が求められる未来
難しい”本当の”乗り心地評価
「自動運転が日常になれば、次に求められるのはその“運転の質”ではないか」そう話すのは、静岡理工科大学理工学部機械工学科の野崎孝志教授。企業とともにさまざまな研究を行っている、トライボロジー(摩擦学)や自動車NVH(Noise:騒音/Vibration:振動/Harshness:乗り心地)領域の専門家である。
野﨑教授は「乗り心地」を評価するための新しい手法を模索している。言い換えるならば“究極の乗り心地“を実現するための研究といえるだろう。
「乗り心地の評価」はとても難しい。 「乗り心地が良い」という時に私たちが最初に思い浮かべるのは、恐らく“静粛性”や”安定性”だろう。しかし「心地よい揺れ」というものがあるように“大きな揺れが不快・小さな揺れは快適”と簡単には分けられない。それが評価の難しい所以だ。
現状の評価で使われるFFT解析(時刻歴の波形に含まれる様々な周波数を検出し解析する方法)では、周波数ごとの車体振動を表し、人間が感じる振動を数値にすることが可能である。しかし、乗員の“感じ方”には個人差があり、そもそも振動だけを基準にして乗り心地を評価してよいのかという根本的な疑問も生じる。
ゴツゴツとかフワフワとか、曖昧な表現も多い”乗り心地”をどう評価すべきだろうか。
乗り心地を的確に表す
新しい評価基準を見つけ出す実験
野﨑教授が行ったのは、乗り心地と振動の関係性を正確に把握するための実験である。実車実験ではヨーロッパ車4台と国産車3台を使用。それぞれの車が路面走行中に①段差( マンホール )に乗り上げた時と②そこから平面に復帰した時を含む「振動波形」を計測した。その振動が乗員の心にどんな影響を与えるかを調べるために、自動車評論家の両角岳彦氏に計測中の車両に乗り組んでもらい、①と②の時点での乗り心地をそれぞれ10段階評価してもらった。
両角氏が 「心地良い」から「心地良さに欠ける」までそれぞれに判定した車の振動を比較してみると、それぞれある「特殊関数」にカーブフィット(実験で得たデータに最もよく当てはまる曲線を求めること)した。それを根拠に、特殊関数の波形と振動の波形の相関関係から乗り心地が評価できるのではないか、と野﨑教授は考えている。
さらに、これを裏付けるために「振動と呼吸との相関関係」の研究も行った。
呼吸は人間の心理状態に影響を受けるもののひとつである。呼吸は通常4相に分かれるとされ、1相では息を吐き始め、2相では吐く二酸化炭素量が急激に増える、3相では肺の中の二酸化炭素を吐き切り、4相では吸気に移行するため二酸化炭素の排出量がゼロに戻る…これが通常のサイクルだ。これを波形にしたもの(カプトグラム波形)と、振動や騒音が影響するであろう運転中の呼吸の波形を比べることで、乗り心地と呼吸(ひいては乗車中の心理・乗り心地)の相関関係について調査しようという試みだ。
新しい評価基準を見つけ出す実験
野﨑教授が行ったのは、乗り心地と振動の関係性を正確に把握するための実験である。実車実験ではヨーロッパ車4台と国産車3台を使用。それぞれの車が路面走行中に①段差( マンホール )に乗り上げた時と②そこから平面に復帰した時を含む「振動波形」を計測した。その振動が乗員の心にどんな影響を与えるかを調べるために、自動車評論家の両角岳彦氏に計測中の車両に乗り組んでもらい、①と②の時点での乗り心地をそれぞれ10段階評価してもらった。
両角氏が 「心地良い」から「心地良さに欠ける」までそれぞれに判定した車の振動を比較してみると、それぞれある「特殊関数」にカーブフィット(実験で得たデータに最もよく当てはまる曲線を求めること)した。それを根拠に、特殊関数の波形と振動の波形の相関関係から乗り心地が評価できるのではないか、と野﨑教授は考えている。
さらに、これを裏付けるために「振動と呼吸との相関関係」の研究も行った。
呼吸は人間の心理状態に影響を受けるもののひとつである。呼吸は通常4相に分かれるとされ、1相では息を吐き始め、2相では吐く二酸化炭素量が急激に増える、3相では肺の中の二酸化炭素を吐き切り、4相では吸気に移行するため二酸化炭素の排出量がゼロに戻る…これが通常のサイクルだ。これを波形にしたもの(カプトグラム波形)と、振動や騒音が影響するであろう運転中の呼吸の波形を比べることで、乗り心地と呼吸(ひいては乗車中の心理・乗り心地)の相関関係について調査しようという試みだ。
使用したのはノーマルモード・レースモードの切り替えができるヨーロッパ車。ノーマルモードよりも、レースモードはショックアブソーバーの減衰力が高くなる。同車の運転者には呼吸センサ({\displaystyle {\ce {CO2}}} モニタ)を用い、ノーマル・レース各モードでの運転中に路面の段差(マンホール)を乗り越える前後30秒間の呼吸状態を計測した。
どちらのモードでも共通だったのが、カプトグラム波形の3相で乱れだ。これは自動車走行中の振動で横隔膜や胸壁が圧迫されたからではないかと考えられる。次に、2つのモードの結果を比較してみる。振動波形の振れ幅が大きく、体感的にも強い揺れを感じたレースモードの方がノーマルモードよりも呼吸数が多く、呼吸の間隔が大きく変化していた。
この研究から分かったことは、車体振動の違いが呼吸リズムに影響を与えているということだ。このような生理学的反応の変化は、車の乗り心地を多角的に評価する際に必要な指標になるのではないだろうか。今後は、より確実な人間の生理学的反応と乗り心地評価との相関を見出すため、心臓機能(血流等)との相関も調査する予定だという。乗り心地の良い振動を生じさせるメカニズムが判明すれば、将来的には車に乗れば乗る程元気になる車、ドライバーを眠りに陥らないよう適切な振動刺激を創出する車など乗員とのインターフェースを自在に変えられるような自動車が登場するかもしれない。
どちらのモードでも共通だったのが、カプトグラム波形の3相で乱れだ。これは自動車走行中の振動で横隔膜や胸壁が圧迫されたからではないかと考えられる。次に、2つのモードの結果を比較してみる。振動波形の振れ幅が大きく、体感的にも強い揺れを感じたレースモードの方がノーマルモードよりも呼吸数が多く、呼吸の間隔が大きく変化していた。
この研究から分かったことは、車体振動の違いが呼吸リズムに影響を与えているということだ。このような生理学的反応の変化は、車の乗り心地を多角的に評価する際に必要な指標になるのではないだろうか。今後は、より確実な人間の生理学的反応と乗り心地評価との相関を見出すため、心臓機能(血流等)との相関も調査する予定だという。乗り心地の良い振動を生じさせるメカニズムが判明すれば、将来的には車に乗れば乗る程元気になる車、ドライバーを眠りに陥らないよう適切な振動刺激を創出する車など乗員とのインターフェースを自在に変えられるような自動車が登場するかもしれない。
静岡理工科大学
野﨑孝志 教授
トライボロジー技術を駆使した新たな駆動系の機械要素技術の研究、自動運転の質的向上を狙う乗り心地の研究、および空飛ぶクルマにも適用可能な可変ピッチプロペラの研究(JAXA)等を推進し、次世代ヴィークルのキーテクノロジー創造に挑戦している。
野﨑孝志 教授
トライボロジー技術を駆使した新たな駆動系の機械要素技術の研究、自動運転の質的向上を狙う乗り心地の研究、および空飛ぶクルマにも適用可能な可変ピッチプロペラの研究(JAXA)等を推進し、次世代ヴィークルのキーテクノロジー創造に挑戦している。