地盤の特性を調査して導き出す 実効性の高い地震対策とは
理工学部 土木工学科 教授
中澤博志
地盤工学/地盤防災工学
中澤博志
地盤工学/地盤防災工学
※この記事は「研究」で選ぶ大学進学情報サイト「F-lab」にて掲載された記事を転載しています。
地盤の液状化は私たちにどのような被害をもたらすのか
2024年1月に発生した能登半島沖地震をはじめとして、多くの地震災害に見舞われる日本において、地震対策や自然災害対策は速やかな対応が求められる課題のひとつ。そのような中で「液状化」というフレーズを耳にしたことがある読者も多いだろう。ではこの液状化がどんな現象か、どんな被害が生じるかを具体的にイメージできる人はいるだろうか? あなたは自分が暮らしている地域に、液状化のリスクがあるかを知っているだろうか?
「ハザードマップを見れば、液状化の可能性がある土地なのかは確認できるでしょう。しかしそこで何が起きるのか。足場がゆるくなり避難に支障が生じますし、地下にある上下水道がダメージを受けることもある。道路に段差やひび割れができて車両が通行できなくなるかもしれない。能登半島では基礎が1m以上沈んで全壊する住宅もありました。そのように液状化によって生じる具体的なリスクまでを考慮して、対策を考えることが大切です」
そう語る静岡理工科大学理工学部土木工学科の中澤博志教授は、地盤工学を専門として現在、国土交通省や静岡県内を中心とした多くの自治体とともに、地域の災害対策プロジェクトを進める研究者の一人。私たちの足元に広がる地盤について、特に液状化を研究課題として、発生メカニズムの解明に加えて、具体的な被害のシミュレーション、液状化に対する地盤強度の評価手法の確立、マイクロバブルを活用した液状化対策等の地盤改良工法の提案、液状化後の地盤の回復傾向の調査などを行っている。
「住居も避難施設も交通インフラも地下のライフラインも多くは地盤に接しています。災害対策を考えるうえで、地盤というのはまず目を向けるべき重要なポイントなのです」
「ハザードマップを見れば、液状化の可能性がある土地なのかは確認できるでしょう。しかしそこで何が起きるのか。足場がゆるくなり避難に支障が生じますし、地下にある上下水道がダメージを受けることもある。道路に段差やひび割れができて車両が通行できなくなるかもしれない。能登半島では基礎が1m以上沈んで全壊する住宅もありました。そのように液状化によって生じる具体的なリスクまでを考慮して、対策を考えることが大切です」
そう語る静岡理工科大学理工学部土木工学科の中澤博志教授は、地盤工学を専門として現在、国土交通省や静岡県内を中心とした多くの自治体とともに、地域の災害対策プロジェクトを進める研究者の一人。私たちの足元に広がる地盤について、特に液状化を研究課題として、発生メカニズムの解明に加えて、具体的な被害のシミュレーション、液状化に対する地盤強度の評価手法の確立、マイクロバブルを活用した液状化対策等の地盤改良工法の提案、液状化後の地盤の回復傾向の調査などを行っている。
「住居も避難施設も交通インフラも地下のライフラインも多くは地盤に接しています。災害対策を考えるうえで、地盤というのはまず目を向けるべき重要なポイントなのです」
自然災害被害は常に複合的なものそこでは専門領域を超えた連携が不可欠
多様な被害状況を統合して/考える対策立案をめざして
地盤工学の専門家として液状化を中心とした研究を手掛ける一方、多くの地域で災害対策を進めるなかで、中澤教授が現在重要視している観点があるという。それが多様な専門領域の知見を統合した災害対策の検討である。
「耐震というと建物の強度を高めることに目が向きますが、地盤が沈んでライフラインが欠損したら避難後の生活に困難が生じます。橋を耐震化しても、接続している道路が壊れたら緊急車両が通れなくなる。また、たとえば津波のハザードマップには地盤の液状化が想定されていないし、液状化のハザードマップには津波被害が想定されていないこともある。災害とは常に複合的な危機に晒されるものであり、異なる領域ごとで考えてきたこれまでの災害対策では高い実効性は得られないのです」
前述した能登半島沖地震のほか、2016年に発生した熊本地震でも、本震後に震度5を超える余震などが頻発した。地震を想定した災害対策では本震のみを対象とし、余震による二次・三次被害を想定していないケースも少なくないという。幾多の地震災害が発生する度にこれらの複合的な被害が課題となっており、中澤教授は異なる領域の専門家をつなぎながら、さまざまな地域で統合的な知見による災害対策の確立に挑んでいる。
「耐震というと建物の強度を高めることに目が向きますが、地盤が沈んでライフラインが欠損したら避難後の生活に困難が生じます。橋を耐震化しても、接続している道路が壊れたら緊急車両が通れなくなる。また、たとえば津波のハザードマップには地盤の液状化が想定されていないし、液状化のハザードマップには津波被害が想定されていないこともある。災害とは常に複合的な危機に晒されるものであり、異なる領域ごとで考えてきたこれまでの災害対策では高い実効性は得られないのです」
前述した能登半島沖地震のほか、2016年に発生した熊本地震でも、本震後に震度5を超える余震などが頻発した。地震を想定した災害対策では本震のみを対象とし、余震による二次・三次被害を想定していないケースも少なくないという。幾多の地震災害が発生する度にこれらの複合的な被害が課題となっており、中澤教授は異なる領域の専門家をつなぎながら、さまざまな地域で統合的な知見による災害対策の確立に挑んでいる。
災害の特性を理解するための現場での調査・検証を信念とする
発生の切迫性が高まる大規模地震の代表格に挙げられる「南海トラフ地震」をはじめとして、圧倒的な自然災害を前に、私たちはどう立ち向かえばいいのだろうか。
「近年の地震災害の大きさは我々の想定を大きく上回るものであり、過去の研究データを安易に参考にできない状況です。現在の科学技術の粋を集めたとしても、これから起こる大規模地震の具体的な被害を細かく予測することは不可能でしょう。自然を相手にする、地球を相手にする難しさがここにあるのです」
だからこそ地域ごとの異なる特性を知り、災害現場の細かな状況を現場で調査・検証することが重要だと説く中澤教授。これまで能登半島沖地震や熊本地震はもちろん、豪雨災害などの被災現場に直接足を運び、自らの手で被害状況や地盤の調査を行ってきた。時には20kgを超える貫入装置を一人で抱えて、土砂崩れの現場を調査したこともあったという。
「発生した地震にしても、被災地の地盤の性質や被害状況にしても、ひとつとして同じものはありません。シミュレーターやIT技術がいくら進化しても、何より現場を体感し、その特性を細かく精査することが重要。自然災害に立ち向かう知見を培うために、少なからずその姿勢を忘れてはいけないのです」
「近年の地震災害の大きさは我々の想定を大きく上回るものであり、過去の研究データを安易に参考にできない状況です。現在の科学技術の粋を集めたとしても、これから起こる大規模地震の具体的な被害を細かく予測することは不可能でしょう。自然を相手にする、地球を相手にする難しさがここにあるのです」
だからこそ地域ごとの異なる特性を知り、災害現場の細かな状況を現場で調査・検証することが重要だと説く中澤教授。これまで能登半島沖地震や熊本地震はもちろん、豪雨災害などの被災現場に直接足を運び、自らの手で被害状況や地盤の調査を行ってきた。時には20kgを超える貫入装置を一人で抱えて、土砂崩れの現場を調査したこともあったという。
「発生した地震にしても、被災地の地盤の性質や被害状況にしても、ひとつとして同じものはありません。シミュレーターやIT技術がいくら進化しても、何より現場を体感し、その特性を細かく精査することが重要。自然災害に立ち向かう知見を培うために、少なからずその姿勢を忘れてはいけないのです」
2004年に発生した新潟中越地震によって液状化して通行が困難になってしまった道路
液状化した地盤を再現して行った避難検証実験。通常の路面と比べて2倍の時間を要するだけでなく、歩行者への負担も大きいという結果に
2016年に発生した熊本地震で液状化した地盤調査のため、現場に赴いて貫入装置を使った調査を実施