薬剤耐性菌に材料で対抗する 高分子バイオマテリアルの開発
理工学部 物質生命科学科 准教授
小土橋陽平
高分子化学/生体医工学
小土橋陽平
高分子化学/生体医工学
※この記事は「研究」で選ぶ大学進学情報サイト「F-lab」にて掲載された記事を転載しています。
人類の脅威になっている薬剤耐性菌の持つ特性とは
これまで効いていたはずの抗生物質に対して菌が耐性を持ち、薬が効かなくなってしまう。そこでより強い薬を活用するのだが、その薬に対しても菌はいずれ耐性を持ち......。近年、医療の世界で大きな問題となっているのが、それら「薬剤耐性菌」の存在だ。何も対策を打たなければ、2050年には世界中で年間1,000万人の死者が出ることが想定されている。
「抗生物質を吐き出したり、別の成分に変えてしまったりするのが薬剤耐性菌の特性です。私たちはそれに対してマテリアル(材料)の観点から対策を進めるべく、研究を行っています」
そう語るのは、静岡理工科大学理工学部物質生命科学科の小土橋陽平准教授だ。温度やpH(水素イオン濃度)、光、磁場などの外部環境の変化に応じて性質を変化させるスマートポリマー(刺激応答性高分子)の研究に長く取り組み、さまざまな材料を開発してきた。なかでも力を注ぐのが、薬剤耐性菌に抗菌効果を発揮するバイオマテリアル(生体材料)の開発だ。
「薬剤耐性菌に対して材料でアプローチするメリットに、菌が材料に対しては耐性を持ちづらいことが挙げられます。医工連携のもと、医療分野での実用化をめざしています」
「抗生物質を吐き出したり、別の成分に変えてしまったりするのが薬剤耐性菌の特性です。私たちはそれに対してマテリアル(材料)の観点から対策を進めるべく、研究を行っています」
そう語るのは、静岡理工科大学理工学部物質生命科学科の小土橋陽平准教授だ。温度やpH(水素イオン濃度)、光、磁場などの外部環境の変化に応じて性質を変化させるスマートポリマー(刺激応答性高分子)の研究に長く取り組み、さまざまな材料を開発してきた。なかでも力を注ぐのが、薬剤耐性菌に抗菌効果を発揮するバイオマテリアル(生体材料)の開発だ。
「薬剤耐性菌に対して材料でアプローチするメリットに、菌が材料に対しては耐性を持ちづらいことが挙げられます。医工連携のもと、医療分野での実用化をめざしています」
薬剤耐性菌への解決策として高分子材料の“形を薬にする”
セミの翅(左)と研究室で高分子材料により作成されたナノスケールの柱(右)の拡大写真。セミの翅の機能を模倣してつくられている
薬品の成分が菌を攻撃する、というのは大雑把であれイメージしやすいだろう。一方で「材料が菌を抑える」とはどういうことなのだろうか。小土橋准教授が開発した機能性高分子の働きは大きく「吸着」と「抗菌」に分けられる。
「表面がマイナスに帯電する細菌に対し、高分子材料には水に溶解するとプラスに帯電するカチオン性の素材を活用します。この静電的な相互作用によって材料に細菌が吸着します。その後、高分子材料の一部が細菌の膜に差し込まれ、細菌を物理的に破壊すると考えられています」
研究室では薬剤耐性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を始め、緑膿菌や大腸菌、カンジダ菌など、さまざまな細菌や真菌に対する抗菌性を実証済み。またフィルムなどへの加工も実現しており、傷や手術跡を覆うために使用する抗菌性ドレッシング材(創傷被覆材)としての医療現場での応用を進めている。
また、小土橋准教授が材料開発を進めるうえで取り入れるのが、“生き物の細菌感染対策”からヒントを得た生物模倣の考え方である。
「トンボやセミの翅(はね)の透明な部位にはナノメートルの針山のような柱がたくさんあり、付着した細菌を破壊することがわかっています。ここから材料の“形(構造)が薬になる”のではないか、という着想を得ました」
同様の構造で抗菌性を再現する研究が世界中で行われるなか、小土橋准教授は親水性を持った柔らかい高分子材料でナノスケールの柱をつくる研究を開始。その特性により、セミの翅では抗菌効果が弱い細胞壁の厚い細菌にも効果が見込める材料の開発に成功。米国の科学雑誌の表紙を飾る研究成果となった。
「昆虫の翅は一般的に水を弾くように進化していますが、私たちが開発した素材は、もし海中に生きるセミがいたらこんな機能を持っていたのではないか、という考えによるもの。“現存しない生物の生物模倣”という発想で、新しい機能性材料の開発をめざしています」
「表面がマイナスに帯電する細菌に対し、高分子材料には水に溶解するとプラスに帯電するカチオン性の素材を活用します。この静電的な相互作用によって材料に細菌が吸着します。その後、高分子材料の一部が細菌の膜に差し込まれ、細菌を物理的に破壊すると考えられています」
研究室では薬剤耐性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を始め、緑膿菌や大腸菌、カンジダ菌など、さまざまな細菌や真菌に対する抗菌性を実証済み。またフィルムなどへの加工も実現しており、傷や手術跡を覆うために使用する抗菌性ドレッシング材(創傷被覆材)としての医療現場での応用を進めている。
また、小土橋准教授が材料開発を進めるうえで取り入れるのが、“生き物の細菌感染対策”からヒントを得た生物模倣の考え方である。
「トンボやセミの翅(はね)の透明な部位にはナノメートルの針山のような柱がたくさんあり、付着した細菌を破壊することがわかっています。ここから材料の“形(構造)が薬になる”のではないか、という着想を得ました」
同様の構造で抗菌性を再現する研究が世界中で行われるなか、小土橋准教授は親水性を持った柔らかい高分子材料でナノスケールの柱をつくる研究を開始。その特性により、セミの翅では抗菌効果が弱い細胞壁の厚い細菌にも効果が見込める材料の開発に成功。米国の科学雑誌の表紙を飾る研究成果となった。
「昆虫の翅は一般的に水を弾くように進化していますが、私たちが開発した素材は、もし海中に生きるセミがいたらこんな機能を持っていたのではないか、という考えによるもの。“現存しない生物の生物模倣”という発想で、新しい機能性材料の開発をめざしています」
現存しない生物の機能を模倣する!?
新たなアイデアを生み出す思考法
高分子をデザインする力で医療現場に貢献したい
「カチオン性のある素材で抗菌性を生み出す研究は他にもありますが、なかには抗菌効果が弱かったり、対象となる菌が限定されたり、人体に毒性を持ってしまう例もあります。そこで高分子材料のデザインを得意としているのが私たちの研究室の強みです。また、粒子や糸状に加工することも得意としているので、高分子材料をとても細かくカスタマイズできる。この強みを活かし、他の研究とは異なるアプローチで成果をあげていきたいです」
高校生のころに化学と医学の分野に興味を持ち、早くから医療現場で活用できる製品や技術を、と意識して研究に取り組んできたという小土橋准教授。長く続く研究の多くが、国内外の研究者や企業、医療機関と連携して進められているものだ。
「研究室では基礎研究から応用研究まで幅広く行います。使われてこその科学をモットーに、医療現場の役に立つ新しい高分子材料を開発することが、研究における最大の目標です」
高校生のころに化学と医学の分野に興味を持ち、早くから医療現場で活用できる製品や技術を、と意識して研究に取り組んできたという小土橋准教授。長く続く研究の多くが、国内外の研究者や企業、医療機関と連携して進められているものだ。
「研究室では基礎研究から応用研究まで幅広く行います。使われてこその科学をモットーに、医療現場の役に立つ新しい高分子材料を開発することが、研究における最大の目標です」
開発した抗菌性フィルムのプロトタイプ。ドレッシング材などへの活用を計画している
薄い高分子材料の表面、白濁した一角にナノスケールの柱の加工が施されている
研究室で開発した高分子材料の一例。指先の温度を感知して、脱水性(白い部分)を生じる機能をもつ